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『復讐者に憐れみを』『オールド・ボーイ』『親切なクムジャさん』

パク・チャヌクの復讐三部作

映画には様々な快楽があります。美しい映像、俳優さんの演技の技、シナリオの妙、印象的なファッション、独特の舞台。その中でも「新しい視点」を授けられるのは特に大きな喜びです。この『親切なクムジャさん』には、その喜びがありました。

この映画はパク・チャヌク監督の復讐三部作『復讐者に憐れみを』『オールド・ボーイ』の最後を締めくくる作品だそうで。私は『オールド・ボーイ』を始めに見て「なんて痛くて、なんて救いのない映画なんだ。でも、まぁまぁ面白いかな。迫力がある」という印象でした。いわゆるどんでん返し系のシナリオと執拗な暴力描写を魅せる映画でしたが、テーマの深みとしては「凝っているが薄っぺら」という印象でした。ですので『親切なクムジャさん』にも、女優イ・ヨンエの衣装&表情の七変化と監督の映像美ぐらいしか期待していませんでした。

…ところがコレが爽快さと重量感を伴って裏切られます。復讐とは何か?因果とは何か?救いとは何か?人間は日々をどうやって生きているのか?
これは『復讐者に憐れみを』も見なくては。

繰り返しますがネタバレガンガンなので、映画を見てない人は絶対に読まないでください。復讐三部作は、復讐や因果に興味がある時期には見て損のない作品群です。多くのことが丁寧に考え抜かれています。

ではまず、見た順番に感想を。最初は『オールド・ボーイ』です。

オールドボーイ01

オ・デス役  チェ・ミンシク(男優) 
イ・ウジン役 ユ・ジテ(男優) 
ミド役    カン・ヘジョン(女優) 

この映画を見た前後の数日間はギリシャ神話の『スフィンクスとオイディプス』について考えていた時期でした。近親相姦によって生まれたスフィンクスが、同じく近親相姦を犯すことになるオイディプスの前に謎謎を伴って立ち塞がります。驚きました。『オールド・ボーイ』と基本構造が同じなのです。何かを考え抜いていると、同じテーマの本や映画や音楽や友達にタイミングよく出会います。これは、自分が考えているテーマに引き寄せて物事を見るせいもあるでしょうが、やはり驚くものです。【修正】後にオ・デスの名がオイディプスからきているコトを知る

…というわけで、『スフィンクスとオイディプス』に重ね合わせながらの鑑賞を強いられたのですが、これが『オールド・ボーイ』を大絶賛できない理由になりました。紀元前の神話を『オールド・ボーイ』は繰り返しているだけに見えるのです。イ・ウジン(謎を問う方)は自分が犯した罪を、オ・デス(答えを探す方)に繰り返させるのです。救いを求め抜いて、結果的に挫折する愚かさなら見る意義を感じますが、イ・ウジンのやり方には復讐によって救いを得ようとする迫力を感じません。最初から無意味なことを解ってやっているように見えるのです。このタイプの人物を眺めて面白いかな〜?そんな虚無感が罠のトリッキーさ(映画としてはシナリオの)の前提になっています。そのために「凝っているが薄っぺら」という印象しか残りませんでした。

しかし、復讐三部作を通して鑑賞し考えて直してみると、もう一段、層の深いメッセージを考え出すことになるのです。おそらくパク・チャヌク監督は、同じテーマで複数の映画を撮り、それらを「復讐三部作」なんてキャッチで括ると鑑賞者が勝手に深読みして作品をより楽しむことになることを計算しているようです。ニクイなぁ。

次に『親切なクムジャさん』の感想

クムジャ役 イ・ヨンエ(女優)
ペク先生役 チェ・ミンシク(男優)

親切なクムジャさん03

結論から書きます。
この映画を見て、私が得た新しい視点とは「復讐しても心の平安は得られない、…が、だからといって復讐してはならない、とか復讐は無意味だ、というコトに直結はしない」という視点です。なんだかマヌケでぼやけた視点ですが、それまでの私は「復讐しても心の平安は得られない→復讐してはいけない」という単純な視点しか持ってなかったので眼から鱗が落ちました。

人間一人にも多重なる人生のテーマが同時に流れています。たとえ心の平安を得られなくても、クムジャさんが他者に(激烈に)親切だったのは確かですし、娘に抱かれ、年下の青年に見守られる雪降るラストシーンを迎えることができました。復讐・消えない罪・贖罪など、人生の全てに見えていたモノが、クムジャさんの長大な人生のごく一部に過ぎなくなっていくのです。この「生きることの層の厚さ」は、私に中程度の「救われた&助かった」感を与えてくれました。嬉しかったです。

いくつか気になるところを。(全体から見ると枝葉に過ぎませんが)
なぜクムジャさんは「親切にも」遺族を集め、残酷なる真実を知らせ、残酷なる行為を促したのでしょうか?温い生活を送っている私には、この「その残酷さに打ち砕かれても、真実を見ること・求めることは大事」という感覚に戸惑ってしまいます。事実、遺族たちも犯人を探しだし復讐しようとはしていないのですから。

親切なクムジャさん04

このクムジャさんのキャラクターはパク・チャヌク監督のキャラクターと関係しているようです。観客に徹底的にリアリズムを見せつけるのは、復讐三部作の手法でありテーマの一つなのですから。(この徹底したリアリズム強制は、クムジャさんの犯行の再現現場に遺族が立ちあったり、『復讐者に憐れみを』で娘の司法解剖に父親が立ち合うシーンからも判ります)ですから、クムジャさんのキャラクターは映画の手法であり監督の撮り方から規定るのであって、モラルや社会性とは関係ありません。クムジャさんの行為をモラルや社会性の視点から批判してもナンセンスです。監督の姿勢そのものを批判するのは、まぁ正当かな?(私は「悪」を描くことも芸術家や興行家の役割として肯定します)

ただ、気になるのはペク先生の妻役をさせられた女性はキツイだろうな〜。彼女の痛みは何処にいくんだろ?

親切なクムジャさん06

さて『親切なクムジャさん』に感動したので、次は『復讐者に憐れみを』です。復讐三部作の第一作目。この作品から鑑賞できたらよかったのですが、なにごとも完璧というわけにはいきません。

リュウ役  シン・ハギュン(男優)
ドンジン役 ソン・ガンホ(男優)
ヨンミ役  ぺ・ドゥナ(女優)

復讐者達に憐れみを04

…う〜ん。まぁ水準以上の映画ではありますが、コレ以上の映画もたくさんあります。(北野映画なんかね)いわゆる復讐の連鎖、連鎖、連鎖の暴力映画です。よく似た映画で心が震えたのは、南米の少年ギャングの興亡を描いた『シティ・オブ・ゴッド』。これには乾いた乗りの良さがあり、絶望的なのに陽気で爽快な映画でした。思い出しただけでタメイキが出ます。

このタイプの映画には、極めて視野が狭い人物が大量に登場し、復讐が人情を離れて単なる報復システムとなる様を見せらますが「人間はビックリするほど愚か」なんてメッセージには、もう心底ウンザリなんです。2002年の作品ですが、この時代に、このテーマを撮る意義はあったんでしょうか?(おっと、偶然にも『シティ・オブ・ゴッド』も2002年!他にも『インファナル・アフェア』『ボウリング・フォー・コロンバイン』など。…時代の空気だったのかしら?)

『シティ・オブ・ゴッド』では、この復讐の連鎖システムがガッチリと生活に組み込まれており、ちょいと気が利いた人物が介入したぐらいでは事態を変えられない絶望感があり、それが映画にリアルティと生命力を与えています。またカメラマン志望のの少年のレンズを通して、ギャングの興亡をシャーレの中の細菌を観察するように見るという、極めて覚めて乾いた感覚を観客に与えるところも斬新でした。ところが『復讐者に憐れみを』では、あんなにイイ大人が沢山出ているのに、ドイツもコイツも思考射程距離が短か過ぎ。人間の愚かしさや社会の条理と不条理を、ベタなやり方で今さらやられても…です。

しかし、この作品群は当初から三部作を予定しており、その導入として過去の全ての復讐劇をいまいちど踏襲し、超えてゆく宣言なのだとしたら話は変わってきます。
__________________________________________

最後に復讐三部作を一つの作品として捉え直して観ます。その視点としてラングトン博士によって人口生命と名付けられた、コンピュータ内の仮想空間で動くドット「セル・オートマトン」を使わせてもらいます。私も正確に理解はしていませんが、ニュアンスを伝えるためにあえて誤読しながら書かせてもらいます。「セル・オートマトン」に関する正確なページ

カオスの縁

【固定】変化は生じない固定的な社会。
【周期】同じ変化を繰り返すだけの社会。
【複雑(カオスの縁)】様々なパターンがある程度長く存続する豊かな社会。
【カオス的】大量の変化が現れた瞬間に消えてゆく沸騰したような社会。

復讐三部作は【カオス】→【複雑(カオスの中の秩序)】に移行してゆく物語として捉えてみます。(【周期(繰り返すだけの憎悪の連鎖)】→【複雑(カオスの中の秩序)】なのかもしれませんが、何処の位置からでも「カオスの中の秩序を目指す」ことを書きたいのです)少々、強引で単純ですがやってみます。

まず第一作『復讐者に憐れみを』は【カオス】から始まります。映画の前半は犯罪者側の視点から犯行が語られ、後半は遺族の視点から復讐が語られます。パク・チャヌク監督のデビュー作?『JSA』でも北と南に分けられた朝鮮半島の民族が描かれており、観客の視点を2つに分断させ、どちらか一方への感情移入を許さないように撮っています。この「感情移入の分断」は、この世に流れるカオスを観客に体感させる、パク・チャヌク監督得意の手法のようです。

第ニ作『オールド・ボーイ』は【カオス】から【複雑(カオスの中の秩序)】を目指し、そして失敗する様を描きます。ここでは謎謎と2つの近親相姦というもともと一つだったものが分断され、再び一つになろうとする モチーフが登場します。謎謎とは中沢新一さん(芸術人類学者・宗教学者『人類最古の哲学』著)によれば、通常は離れているモノを急劇に接近させることで、驚きや神秘を発生させる危険な側面があるモノ、とされています。『オールド・ボーイ』での謎謎は、近すぎる存在だから結ばれてはいけないというモチーフ「近親相姦」の反復相乗効果として機能しています。

オールドボーイ05

これは分断されたモノをなんでもかんでも一つにしてはいけない、というメッセージです。分断し、離して置かなくてはいけないモノ、一つになるのに「時期」があるモノが社会には沢山あり、その見極めをおろそかにすると、カオスから抜け出ようとする行為が、さらにカオスを深めることになるのです。そして、その見極めは人智を超えています。

第三作の『親切なクムジャさん』は【複雑(カオスの中の秩序)】を体現します。クムジャさんには復讐に関係しない世界、ケーキと娘があります。ですので、前二作の主人公たちのように復讐が人生の全てにはならない位置にいるのです。また、クムジャさんが前二作の復讐者よりも、日常性を超えた正義や美意識を指向している描写が多いです。そのために復讐三部作の登場人物の中でも飛び抜けた思考射程を持つキャラクターになっています。魔女のクムジャと親切なクムジャさんは、日常生活圏を超えた場所で同一であり(または復讐を通して分裂し、または同一になり)、四角いホワイトケーキの中で日常生活圏に軟着陸を果たすのです。身に大量の混沌と罪を抱えながらも、クムジャさんは日常生活圏に秩序を打ち立て暮らしていくことが出来るのです。

親切なクムジャさん09

最後にクムジャさんにマザー・テレサの言葉を。

 人は不合理、非論理、利己的です
 気にすることなく、人を愛しなさい

 あなたが善を行うと、
 利己的な目的でそれをしたと言われるでしょう
 気にすることなく、善を行いなさい

 目的を達しようとするとき、
 邪魔立てする人に出会うでしょう
 気にすることなく、やり遂げなさい

 善い行いをしても、
 おそらく次の日には忘れられるでしょう
 気にすることなく、し続けなさい

 あなたの正直さと誠実さとが、あなたを傷つけるでしょう
 気にすることなく、正直で誠実であり続けなさい

 あなたが作り上げたものが、壊されるでしょう
 気にすることなく、作り続けなさい

 助けた相手から、恩知らずの仕打ちを受けるでしょう
 気にすることなく、助け続けなさい

 あなたの中の最良のものを、この世界に与えなさい
 たとえそれが十分でなくても
 気にすることなく、最良のものをこの世界に与え続けなさい

 最後に振り返ると、あなたにもわかるはず、
 結局は、全てあなたと内なる神との間のことなのです。
 あなたと他の人の間のことであったことは一度もなかったのです

ここまで読んでくれた奇特で暇なアナタに感謝します。

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この記事にコメント
うちの職場のチャングム好きの女性もとっても実行力のある人。私も韓国映画好きなんですよーオールドボーイとか!とか言ったものの噛み合ない会話っぷりに逆に心が噛み合ってしまうコミュニケーションの幸せさよ。

パクチャヌク映画の暴力と性描写以前になにかが洗練されすぎてR-18っていうのが価値観の再構築をさせられます。
From: アッサム * 2007/01/15 09:07 * URL * [Edit] *  top↑
R指定
いや〜R指定だったんですね。いつのまにか、そんなコト気にする年じゃなくなったんだな。確かにオールドボーイはシナリオの肝部分にR指定を越えるタブーが絡んでいるもんな。でも事前に知らされても面白さ半減だし。

調べて見ると「暴力」よりも「性愛」の方がR指定にされやすいみたいです。知らなかった。これは問題ですよ。
From: 竜胆ヒマワリ * 2007/01/16 01:43 * URL * [Edit] *  top↑
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親切なクムジャさん
2005年 韓国映画 監 督 パク・チャヌク 出 演 イ・ヨンエ、チェ・ミンシク、キム・シフ、ナム・イル、キム・ビョンオク、オ・ダルス、イ・スンシン、キム・ブソン
2007/01/20(Sat) 09:43:27 |  お気に入りの映画
花ヒマワリについて
ヒマワリ|-! bgcolor="lightgreen"|学名|-|align="center"|''Helianthus annuus''|-!bgcolor="lightgreen"|和名|-|align="center"|向日葵|-!bgcolor="lightgreen"|英名|-|alig
2007/02/08(Thu) 20:55:07 |  花の香り
【竜胆】
竜胆|- style="background-color:lightgreen"! 学名|- style="text-align:center;"| ''Gentiana scabra'' var. ''buergeri''|- style="background-color:lightgreen"
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